什の掟【じゅうのおきて】

先日、古い校舎を案内して頂いた際に思った事がある。

『教育って、いつからこんなに複雑になったのか』

僕が子供の頃は年中頭を抱えていた。
悩んでいたのではなく、拳骨をもらって痛さのあまりに抱えていた。父親だけじゃなく、学校の先生にも、そりゃもうそこら中で。今じゃ、そんなことした日には・・・

あるエピソードがある。
昔、妻と電車に乗っていた時に好き放題に暴れ回る子供の親御さんに一言申し上げた事がある。その際に徹底して無視された挙げ句、去り際にこう言われた。

『うちの子だよ』

恐らくは、自分たちの子育ての方針というものがあって、そこに文句をつけるな。と言いたかったのだろう。それもわからぬでもなかった。万歩譲って見れば伸び伸びして元気のよい子供とも捉えられるからだ。そんな価値観を持つ事ができることも自由な国であることだとも思えた。

時代は変わるものだな・・・

僕は自由という名の下でも守らねばならない常識と許される個々の方針の『境目』は世は変われど必ずあると思う。あの子は電車で好き放題してははいけないという常識をいつ、どこで、誰に教えてもらうのだろうか。

『什の掟』(じゅうのおきて)という教えがある。

近代化の夜明けも近い幕末に名を馳せた『会津』の武士の子弟はこの「什の掟」を幼少期に身につける。幕末の動乱期に脚光を浴びる会津藩領内での教え、その内容はこういうもの。

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一、年長者のいうことにそむいてはなりませぬ。
二、年長者にはお辞儀をせねばなりませぬ。
三、虚言をいってはなりませぬ。
四、卑怯な振舞をしてはなりませぬ。
五、弱い者をいじめてはなりませぬ。
六、戸外で物を食べてはなりませぬ。
七、戸外で女の人と言葉を交えてはなりませぬ。
八、ならぬものはならぬものです。

現代では厳しく、錯誤してしまう内容はあるものの、概ね今でも守らねばならない教えだ。ただ、注目すべきなのは、わざわざ教えられるというよりは家庭での生活の中で武士道の基本を身につけることだ。そして、少し大きくなったら日新館という藩校や塾に入り、そこでより理解を深める。藩校や塾は現代の学校とは違い、学問や武道を身につける事よりも、むしろそうしたシンプルな教えを通して生き方全般を学ぶのだ。

自由と常識には崩してはならない壁がある。

親は学校を子供の委託先か何かと勘違いし、学校は多種多様な親を気にして腫れ物に触れるように決められた『教育』を粛々と進める。自らが考えて、何かを決めるにはあまりにも判断材料が乏しいのではないか。

とお構いなしに感じてしまう。
単なる人という意味ではない『人材』が傑出していた時代や環境をもう少し振り返る事をしてもいいのではないかな。とも。

最後に。
什の掟を経て、藩校や塾で理解を深めた会津武士が仕える会津藩には『家訓15か条』という重すぎる掟がある。
言わずもがな、歴史に明るい方であればこのうちの「大君の儀」のくだりが貧乏くじと言われる京都守護職を拝命させ、のちの会津藩の悲劇の源になった事はご存知のことと思います。はてさて、現代の読み人はいかに感じることでありましょうか。

Post by Yuichi Seshimo STAGEWORKS.inc

一、大君の儀、一心大切に忠勤に励み、他国の例をもって自ら処るべからず。
  若し二心を懐かば、すなわち、我が子孫にあらず 面々決して従うべからず。

一、武備はおこたるべからず。士を選ぶを本とすべし 上下の分を乱るべからず

一、兄をうやまい、弟を愛すべし

一、婦人女子の言 一切聞くべからず

一、主をおもんじ、法を畏るべし

一、家中は風儀をはげむべし

一、賄(まかない)をおこない 媚(こび)を もとむべからず

一、面々 依怙贔屓(えこひいいき)すべからず

一、士をえらぶには便辟便侫(こびへつらって人の機嫌をとるもの
  口先がうまくて誠意がない)の者をとるべからず

一、賞罰は 家老のほか これに参加すべからず
  もし位を出ずる者あらば これを厳格にすべし。

一、近侍の もの をして 人の善悪を 告げしむ べからず。

一、政事は利害を持って道理をまぐるべからず。
  評議は私意をはさみ人言を拒ぐべらず。
  思うところを蔵せずもってこれを争うそうべし 
  はなはだ相争うといえども我意をかいすべからず

一、法を犯すものは ゆるす べからず

一、社倉は民のためにこれをおく永利のためのものなり 
  歳餓えればすなわち発出してこれを救うべしこれを他用すべからず

一、若し志をうしない 
  遊楽をこのみ 馳奢をいたし 土民をしてその所を失わしめば
  すなわち何の面目あって封印を戴き土地を領せんや必ず上表蟄居すべし

  右15件の旨 堅くこれを相守り以往もって同職の者に申し伝うべきものなり
  寛文8年戊申4月11日


 

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